光学設計ソフトウェア Lumerical と Zemax の連携方法
この記事では、Zemax から Lumerical の有限差分固有モード (FDE) ソルバーに情報を変換する方法を説明します。これは、システムの一部がバルク光学系、もう一方が導波路のような多段構成の場合に役立ちます。この例では、集光レンズから小さなシリカファイバーへの結合を見ていきます。まず、偏光ビームを Zemax Beam File (.zbf) として Lumerical Eigenmode Solver にエクスポートします。そして、Lumerical Eigenmode Solver で作成されたモードとエクスポートされた Zemax ビームとの重なりと電力結合を計算します。Lumericalのビーム間の重なり解析により、より良いモードが示唆されます。このモードは、Zemax Beam File として Lumerical から OpticStudio に再度エクスポートされます。
はじめに
この記事では、Zemax から Lumerical Eigenmode ソルバーソフトウェアへの情報変換方法を説明します。これは、システムの一部が OpticStudio で効率的にシミュレーションできるが、他の部分 (導波路、フォトニック結晶など) で電磁波伝播ツールが必要な場合に役立ちます。Lumerical の有限差分固有モード (FDE) ソルバーを使用して、任意の導波路形状がサポートする光モードの物理特性を決定することができます。
この例では、Lumerical Eigenmode ソルバーソフトウェアを使用して、集光レンズからの小さなシリカファイバーへの結合について説明します。このチュートリアルでは、Lumerical ソフトウェアにある程度習熟されていることを前提としています。
OpticStudio からデータを取得
まず、OpticStudio を起動します。解析機能 (2D レイアウトなど) を選択して、光線がどのように一点に集束するかを確認できます。像面は、ファイバーの受信側の入力端として機能します。このファイバーは屈折率 1.43 の材料と、1% 反射、99% 透過させる AR コーティング COAT I.99 を使用しています。
解析→[物理光学](Physical Optics)を選択して、6ミクロンのウェストをもつガウスビームがレンズ光学系の像面に合焦することを確認します。
像面で計算されたビームウェストは 5.8787μm、レイリー長は 0.1mm です。入力ウエスト 6 μmで計算されたファイバー結合は、受信側で 95% です。
ここから、OpticStudio にビームファイルを出力させることができます。後で Lumerical でインポートする必要があります。「物理光学伝播」ウィンドウの上部にある「設定」オプションをクリックし、「表示」タブを選択して「出力ビームの保存先」オプションをクリックします。次に、ファイル名を Fiber_output.zbf に設定し、OK を押します。「偏光を使用」チェックボックスを選択してベクトルビームを定義します。偏光がないとビームはスカラーとなり、Lumerical で zbf ファイルを読み込むにはスクリプトコマンドを使用する必要があります。
これらのファイルは通常、{Zemax}\POP\BEAMFILES ディレクトリに保存されるので、そこからファイルを見つけることができます。
モード計算のためのファイバー構造を作成する
このセクションでは、ステップインデックスファイバーを作成します。Lumerical ランチャーを開き、有限差分固有モード (FDE) ソルバーを選択します。step_index_fiber.lms ファイルは、このAnsys Lumerical記事 のダウンロードセクションからもダウンロードできます。
ステップインデックスファイバーの物理構造は、レイアウトエディターの「構造」タブを使用して作成されます。「構造」(Structures)ボタンの矢印をクリックし、プルダウンメニューから「円」を選択します。
次に、オブジェクトのプロパティを編集します。
円クラッドとコアのプロパティを以下の表に従って設定します。
コア
「設計」(Design)タブの「構造」(Structures)セクションから、オブジェクトツリーに追加する「円」(Circle)を選択します。オブジェクトツリーで円を選択し、Edit Properties「プロパティ編集」ボタンをクリックして、以下の表に従って円のプロパティを編集します。
ab | プロパティ | 値 |
---|---|---|
name | Core | |
x (μm) | 0 | |
y (μm) | 0 | |
z (μm) / z span (μm) | 1 | |
radius (μm) | 9 | |
材料 | Object defined dielectric | |
屈折率 | 1.44 | |
メッシュオーダー | 2 |
クラッド
「設計」タブの「構造」セクションから、オブジェクトツリーに追加する別の「円」を選択します。オブジェクトツリーで円を選択し、「プロパティ編集」(Edit Properties)ボタンをクリックして、以下の表に従って円のプロパティを編集します。
注意:メッシュの分割において、”clad” (クラッド) 構造が “core”(コア) 構造と重なる領域を埋めないように、メッシュ次数を5 (デフォルトの2よりも高次) に設定しています。また、”clad” 構造のz方向の範囲を “core” 構造よりもわずかに小さくすることで、viewport(ビューポート)で “core” 構造が “clad” 構造によって隠れないようにしています。別の方法としては、”clad” プロパティのグラフィック設定(Graphical rendering)タブでアルファ値を1未満にすることで、”clad” 構造を半透明にすることもできます。
ab | プロパティ | 値 |
---|---|---|
name | cladding | |
x (μm) | 0 | |
y (μm) | 0 | |
z (μm) / z span (μm) | 0 / 1 | |
radius (μm) | 26.389 | |
材料 | Object defined dielectric | |
屈折率 | 1.4 | |
オーバーライド・メッシュオーダー | ☑ | |
メッシュオーダー | 5 |
シミュレーション領域
FDEオブジェクトをクリックし、「プロパティ編集」ボタン(オブジェクトツリーの左側)をクリックして、以下の表に従ってプロパティを編集します。シミュレーション領域のサイズは、クラッド円筒が完全に内側に収まるようにし、シミュレーション領域の境界はすべて開いているように設定します。目的は、クラッド円の外表面にシミュレーション境界条件を割り当てることです(境界条件を参照)。
タブ | プロパティ | 値 |
---|---|---|
Geometry | X | 0 |
X span | 35 | |
Y | 0 | |
Y span | 35 | |
Z | 0 |
ステップインデックスファイバーの屈折率分布
以下の図のように、屈折率分布を表示することができます。屈折率分布を表示するには、メッシュ構造をクリックします。
Zemax ビームファイルのインポート
物理構造とシミュレーション領域が定義されたら、MODE の有限差分固有モードソルバー (FDE) 解析コンポーネントについて説明します。構造が作成できたので、励振するフィールドの設定に進みます。Zemax Beam File はすでに single mode coupler.ZBF としてエクスポートされています。ここでは、Eigensolver解析ウィンドウのデッキにある single mode coupler.ZBF ファイルをインポートします。
Zemax LLC\Documents\Zemax\Samples\POP\BEAMFILESからZBFファイルをロードします。
モードの計算
Lumerical でフィールドを表示するには、Zemax ビームファイルからモードを計算する必要があります。波長を OpticStudio と同じ 1.55μmに設定する必要があります。「モード計算」をクリックすると、モード面積が表示されます。以下の図をご覧ください。
ガウスビームとの電力結合と重なり解析
重なりは、2 つのフィールドプロファイルの間で重なる電磁場の割合として定義され、以下の式で計算されます。ここで、E1、H1 はモード 1 のフィールド、E2、H2 はモード 2 のフィールドです。
電力結合は、あるモードから別のモードに結合する電力の割合を表します。入力モード (電力 Pin) と i 番目のモード (電力 Pi) を考えると、電力結合は以下の式で与えられます。電力結合は、モード重なりとモード間の実効屈折率の不一致の両方を考慮した総入力結合を与えます。
Input : E_input and H_input
ith Mode: E_i and H_i
Zemax Beam File で生成された基本モードと結合する最適なスポットサイズを決定するために、理想的なガウスビームとの重なりを計算します。「重なり」(Overlap)タブを選択すると、以下のスクリーンショットが表示されます。「計算」(Calculate)ボタンをクリックすると、現在選択されているモードと現在選択されている D-CARD の重なりと電力結合が計算されます。
以前見たように、モード 2 は Zemax ビームファイルと最大の電力結合と重なりを持っています。「ビーム」タブでは、有効面積を一致させるためにガウスパラメータを確認する必要があります。Zemax Beam File からエクスポートされたガウスビームの有効面積は πw02 であり、w0 = sqrt(122.557/π) μm = 6.3 μm です。モード 2 は w0 = sqrt (122.557/π) μm = 6.7 μm です。モード面積 144.713 μm2 に合わせるには、ウエスト半径 w0 = sqrt (1.2/π) μm = 6.7 μm が必要です。モード 2 を Zemax Beam File として OpticStudio にエクスポートし、ファイバー結合効率を確認します。
OpticStudio への Zemax ビームファイルのエクスポート
モードをデッキ内の D-CARD としてエクスポートします。効率の高い D-CARD は Zemax Beam File として保存できます。このビームを OpticStudio にインポートして、結合効率を確認します。
OpticStudio への新しい Zemax ビームファイルのインポート
Lumerical デッキで作成した新しい Zemax Beam File を OpticStudio Beam File Viewer にインポートします。Lumerical モード 2 から提案されたウエスト半径 6.544 μm が Zemax Beam File Viewer にインポートされたことがわかります。POP ビーム定義とファイバーデータでウエストサイズを変更すると、ファイバー結合効率は 96.02% に向上しました。以前は、ビームウエストは 6 µm で、ファイバー結合効率は 95.47% でした。
結論
この記事では、Lumerical と OpticStudio を連携して光学系を設計する方法を説明しました。この方法は、システムの一部がバルク光学系、もう一方が導波路のような多段構成の場合に役立ちます。