どういう手法か
空間と時間を離散化して、直接解く
解析領域を直交格子に区切り、電場と磁場の各成分を格子セルの中で少しずつ異なる位置に置いて、時間を追って交互に更新します。マクスウェルの回転方程式を空間と時間で離散化して直接解く手法であり、伝搬や散乱の過程にモデル化の近似を持ち込みません。ただし離散化そのものが誤差の源であるため、得られる精度は設定しだいで変わります。
時間領域で得た場をフーリエ変換すると、複素ポインティングベクトルや透過率・反射率といった周波数領域の量が求まります。1回の計算から広い波長範囲の応答が得られるのはこのためです。
格子は材料に応じて自動生成され、高屈折率の材料や吸収の大きい材料ではより細かい格子が使われます。時間刻みは格子の最小寸法に縛られるため、細かい格子はそのまま計算時間に効いてきます。
仕組み
Yee格子上で、電場と磁場を交互に時間発展させる
電場と磁場は同じ点では定義されません。格子セルの中で互いにずれた位置に配置され、時間についても半ステップずらして更新されます。時間微分と空間微分はいずれも中心差分で近似され、空間・時間ともに2次精度の差分スキームになります。
更新は陽的です。前の時刻の値だけから次の時刻の値が決まるため、大きな連立方程式を解く必要はありません。その代わり時間刻みには上限があり、CFL条件を満たさなければ計算は発散します。
精度は手法そのものから自動的に得られるものではありません。格子は精度設定と材料に応じて自動生成され、設定値1が波長あたり6点、以降は4点刻みで細かくなります。計算は自動停止の条件が満たされるまで進め、開放端にはPMLを置きます。実測の(n,k)データを使う材料では、分散モデルの当てはまり具合も結果に効きます。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
広帯域性
1回の時間領域計算で対象の広帯域応答が得られます。周波数を変えて計算を繰り返す必要がありません。
過渡現象と非線形性
時間を追って解く定式化のため、パルス的な応答や非線形なふるまいを自然に扱えます。分散性・異方性・非線形の各媒質への適用が報告されています。
時間発展の可視性
自然と同じように時間が進むため、電磁界がどのように立ち上がり減衰していくかを直接たどれます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 面内で周期的でない構造を扱うとき
→ 広帯域のスペクトル応答を1回の計算で得たいとき
→ 導波モードで励振して素子のSパラメータを求めたいとき
→ 孤立した物体からの散乱を、入射界と分けて見たいとき
別の手法が適している場面
平面的な周期構造:層状で面内に周期性がある構造に平面波が入る問題では、RCWAのほうが計算時間が大幅に短くなります。
層構造だけで完結する問題:STACKは解析的、RCWAは半解析的な手法です。それらが表せる構造では、完全に数値的なFDTDより一般に精度が高くなります。
直交格子に沿わない界面:曲面や斜め界面の表現が結果を左右する場合は、非構造メッシュと高次の基底関数を使う手法のほうが形状の忠実度で優位です。
導波路の断面モード:伝搬方向に一様な構造のモードを求めるのが目的なら、断面の固有値問題を解く手法が答える問いそのものです。
適用対象
代表的な適用対象
メタレンズ・メタサーフェス
単位構造のスペクトルと電磁界分布を求め、位相設計の根拠にします。
回折格子・回折光学素子
回折次数への投影から、回折効率の波長依存性と角度依存性を評価します。
イメージセンサ・マイクロLED
微小な画素や発光構造のまわりの電磁界分布とスペクトルを評価します。
光集積回路の要素デバイス
導波路交差やグレーティングカプラを導波モードで励振し、Sパラメータを求めます。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 構造 | パラメトリックな基本形状の組み合わせ、または外部データから取り込んだ形状 |
|---|---|
| 材料 | 材料データベースの光学定数。実測の(n,k)データには分散モデルを当てはめて使います |
| 光源 | ダイポール、平面波、ビーム、TFSF光源、導波モード光源、取り込み光源 |
| 解析設定 | 境界条件、メッシュ精度(1から8)、最大解析時間、自動停止のしきい値 |
OUTPUT
| スペクトル | モニタが記録した場から求める透過率・反射率の波長依存性 |
|---|---|
| 電磁界分布 | 周波数領域モニタと時間モニタによる場の分布。動画としての記録もできます |
| 遠方界・回折次数 | 近傍界からの遠方界投影と、周期構造に対する回折次数への投影 |
| Sパラメータ | モード展開モニタとSパラメータ行列スイープによる素子のSパラメータ |
進めかた
実際の進めかた
材料と形状を定義する
使う材料を定義し、基本形状の組み合わせまたは取り込みで構造を作って材料を割り当てます。実測データには分散モデルが当てはめられます。
解析領域とメッシュを決める
解析領域を設定し、メッシュ精度を決めます。メッシュ精度は波長あたりの点数に対応し、1で6点、以降は4点刻みで増えます。
光源・モニタ・境界条件を置く
光源とモニタを配置し、開放端にはPML、対称性がある場合は対称・反対称境界を与えて解析領域を減らします。
実行して結果を評価する
エネルギーがほぼ解析領域から出るまで計算し、スペクトルと場分布を評価します。掃引や最適化はこの上で行います。
最大解析時間で打ち切られるのではなく、自動停止の条件が満たされて終わるのが健全な状態です。エネルギーが解析領域に残ったまま終わった結果は、設定を見直してください。
関連手法との比較
関連する解析手法との使い分け
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| FDTD(本手法) | 本手法 | 波長スケールの任意構造 | 直交格子の上で時間領域のマクスウェル方程式を解き、広帯域の応答を1回の計算で得ます。 |
| RCWA | 代替 | 層状で面内に周期性のある構造 | 半解析的な手法で、扱える構造ではFDTDより計算時間が大幅に短く、一般に精度も高くなります。 |
| STACK | 代替 | 層構造だけで完結する反射・透過 | 解析的な手法で、平面多層の問題では完全に数値的なFDTDより一般に精度が高くなります。 |
| DGTD | 代替 | 曲面や斜め界面を含む構造 | 同じ時間領域でも三角形・四面体の非構造メッシュを使い、形状の表し方が異なります。どちらが常に優れるという関係ではありません。 |
| FDE | 補完 | 導波路の断面モード | 断面の固有値問題を直交格子の上で解いてモードを返す手法で、答える問いが異なります。 |
対応製品
この手法を提供する製品
FDTD法による電磁場解析を提供する商用ソフトウェア環境です。FDTD、RCWA、STACKという性質の異なるソルバーを一つの設計環境に備え、掃引・最適化・歩留まり解析や、HPCやGPU、クラウドでの実行に対応します。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Lumerical FDTD
FAQ
よくある質問
電磁場解析の手法選定から、ご相談いただけます
設計対象と評価したい特性をお知らせいただければ、適切な手法と製品をご提案します。
