どういう手法か
キャリアの分布と電流を、連立して解く
静電ポテンシャルについてのポアソン方程式と、電子・正孔それぞれの連続方程式、そしてドリフトと拡散からなる電流密度の式を連立して解きます。ドーピング分布、材料モデル、電極の電位、必要に応じて光生成レートを与えると、キャリア濃度分布、電位、電界、電流が得られます。
解析種別は三つあります。定常状態は動作点を、過渡は時間応答を、小信号AC解析は動作点まわりの線形応答を求めます。同じ構造記述から、直流特性、スイッチング、帯域までを一貫した条件で扱えます。
温度の扱いは選べます。一定温度とする、外部から求めた温度分布を取り込む、熱伝導と連立して自己無撞着に解く、の三通りです。自己発熱が動作に効くデバイスでは三番目を選びます。
仕組み
ポアソン方程式と電子・正孔の連続方程式を、自己無撞着に解く
ドリフト拡散モデルは、半導体を連続体として扱う半古典的な記述です。静電ポテンシャルについてのポアソン方程式、電子と正孔それぞれの連続方程式、そして電子と正孔の流れをドリフト項と拡散項の和で表した電流密度の式を組み合わせます。三者は互いに依存するため、すべてを同時に満たす解、すなわち自己無撞着な解を反復によって求めます。再結合と生成のレートは連続方程式の中に入ります。
この定式化は、素子の微細化によって閉じた形の解析モデルが成り立たなくなった領域を数値的に扱うために体系化されました。手順としては、支配方程式を離散化し、得られた非線形の代数方程式系を反復で解き、その内側で疎な線形問題を解く、という段構えになります。
実装の側では、デバイスを非構造の有限要素メッシュに分割し、メッシュ節点ごとに解を求めます。連続方程式をどの離散化スキームで扱うかは公開されている資料には記載がないため、本ページでは離散化の方式そのものには踏み込みません。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
解析式が届かない領域を扱える
微細化した素子では閉じた形の解析モデルが成り立ちません。連続体の輸送方程式を数値的に解く方法は、その領域を扱うために整えられたものです。
一つの記述から三種類の解析
定常状態、過渡、小信号ACを同じ構造記述から解けるため、動作点、スイッチング、帯域を同じ前提で比較できます。
物理モデルを選んで組み合わせられる
トラップ準位を介した再結合、オージェ再結合、輻射再結合、誘導放出、衝突電離、バンド間トンネルなどを、対象に応じて有効にできます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ pn接合の空乏層幅とキャリア分布を求めたいとき
→ 電気光学変調器の電気特性を評価したいとき
→ 受光器の暗電流、応答度、3dB帯域を求めたいとき
→ イメージセンサでキャリアの収集効率と量子効率を見積もりたいとき
→ 太陽電池の応答度と変換効率を評価したいとき
別の手法が適している場面
光学応答のみ:光の伝搬や吸収そのものを求めたい場合は、電磁場解析やモード解析が扱う領域です。キャリア輸送の解析は光学量そのものを計算しません。
量子井戸の利得:量子閉じ込めが効く活性層のバンド構造と光学利得は、量子井戸を対象とする手法が扱います。
温度分布のみ:発熱量が既知で温度分布だけを知りたい場合は、熱伝導解析だけで完結します。
回路やリンク全体:素子を組み合わせた回路やリンクの性能は、回路レベルの解析が扱う領域です。
適用対象
代表的な適用対象
光変調器
空乏型の位相シフタについて、印加電圧に対するキャリア分布の変化を求めます。
受光器
暗電流、応答度、3dB帯域を求めます。光吸収の分布は電磁場解析から受け取ります。
光トランシーバ・CPO
変調器と受光器の電気特性を、送受信系の設計に反映します。
太陽電池・イメージセンサ
キャリアの収集効率から、変換効率と量子効率を評価します。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 構造 | デバイス形状と、領域ごとの材料割り当て |
|---|---|
| ドーピング | 領域ごとの不純物濃度分布 |
| 材料モデル | 移動度、キャリア寿命、バンドギャップ、有効質量、飽和速度、再結合係数 |
| 励起 | 電極の電位または掃引、光生成レート、温度や発熱の取り込み |
OUTPUT
| キャリア分布 | 電子・正孔の濃度、電位、電界の分布 |
|---|---|
| 電気特性 | 電流、I-V特性、小信号AC応答 |
| バンド図 | バンド構造モニタによるバンド端の分布 |
| 受け渡しデータ | キャリア分布や発熱を、光学解析や熱伝導解析へ渡すデータファイル |
進めかた
実際の進めかた
材料と物性を定義する
半導体と金属の電気・熱物性を材料データベースから与えます。移動度、バンドギャップ狭化、再結合の各モデルもここで選びます。
形状を作り、ドーピングを割り当てる
領域ごとの不純物濃度分布を与えます。光で駆動するデバイスでは、電磁場解析で求めた光生成レートを取り込みます。
解析種別とメッシュを設定する
定常状態、過渡、小信号ACの別と、温度の扱いを選びます。電流密度や電界が急に変わる領域には、メッシュ制約を置きます。
境界条件を与えて実行し、収束を確認する
電極の電位と掃引の刻みを決め、モニタを配置します。収束しない場合は刻みとメッシュ、有効にした物理モデルを見直します。
接合部のメッシュと電圧の刻み方で収束の可否が決まります。高電界移動度モデルや衝突電離を有効にすると収束は難しくなります。手順の中で最も時間を使うべきなのは03です。
関連手法との関係
関連する解析手法との役割分担・連成
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| CHARGE(本手法) | 本手法 | 半導体のキャリア輸送 | ポアソン方程式と連続方程式を自己無撞着に解き、キャリア分布と電流を求めます。 |
| HEAT | 連成 | 構造内の温度分布 | 熱伝導とは自己無撞着に連立できます。自己発熱を含めた電気熱解析はこの組み合わせです。 |
| FDTD | 前段 | 光吸収の分布 | 吸収から求めた光生成レートを、こちらが入力として受け取ります。受け渡しは一方向です。 |
| MQW | 後段 | 量子井戸のバンド構造と利得 | 量子閉じ込めが効く活性層は別手法が扱います。キャリア密度と電界をデータファイルで渡し、順に実行します。 |
| FEEM | 後段 | 導波路の断面モード | キャリア分布から換算した屈折率変化を材料として受け取り、実効屈折率の変化を求めます。 |
対応製品
この手法を提供する製品
ドリフト拡散にもとづく電気解析を提供する商用ソフトウェア環境です。熱伝導解析や量子井戸解析と同じ環境に含まれ、光学解析へのデータの受け渡しもこの環境の中で行えます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Lumerical Multiphysics
FAQ
よくある質問
半導体デバイスの電気・キャリア解析から、ご相談いただけます
デバイス構造と評価したい特性をお知らせいただければ、適切な手法と製品をご提案します。
