どういう手法か
断面のモードを基底に、長さ方向をつなぐ
この手法は、マクスウェル方程式を周波数領域で解きます。構造を伝搬方向に複数のセルへ分割し、隣り合うセルの境界でモードを求めます。境界では電界と磁界の接線成分を整合させ、区間ごとの散乱行列を作ります。
区間の散乱行列を双方向に伝搬させて連結すると、素子全体の散乱行列が得られます。完全ベクトルかつ双方向であるため、反射や後方に戻る成分も結果に含まれます。
モードの計算という計算量の大きい段階が終われば、各区間の伝搬距離を任意に変えても、その段階をやり直す必要はありません。長さの掃引がほとんど追加費用なしに行えるのは、この性質によるものです。
仕組み
セルごとにモードを求め、散乱行列で連結する
各セルの内部では構造が伝搬方向に一様であるとみなされ、セルの中央の断面でモードが計算されます。セル内では各モードが解析的に位相を進めるため、伝搬方向に格子を切る必要がありません。時間領域の解法で長い領域に現れる格子分散の問題が生じないのは、このためです。
基底として使うモードの本数は有限です。この基底は本来は無限次元であり、選んだ有限の集合は必ず不完全です。誤差はモード数を増やすほど小さくなるため、モード数の収束確認が必須の手順になります。連続的に形が変わる区間では、階段状の近似を避けるサブセル法(CVCS)が用意されています。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
長さの掃引が安価
各区間の長さを変えても、モードと界面の散乱行列は変わりません。変わるのは区間内の位相因子だけであり、散乱行列の連結を計算し直すだけで済みます。スポットサイズ変換器の例では、テーパ長を101通り評価するのに3分、同じ素子を3次元の時間領域解法で11通り評価するのに6時間かかり、両者の結果はよく一致しています。
伝搬距離に対するスケーリング
この手法は伝搬距離に対して非常によくスケールし、長い構造の解析に向きます。時間領域の手法では、素子が長くなるほど計算時間が大きく増えます。
格子分散がない
伝搬は解析的に扱われるため、大きな領域の時間領域計算で問題になる格子分散が生じません。完全ベクトルかつ双方向で、反射も結果に含まれます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ テーパやスポットサイズ変換器の、最適な長さを探したいとき
→ MMIカプラの中心部の長さを決めたいとき
→ 長い素子の透過と反射を、Sパラメータとして求めたいとき
→ 方向性結合器の結合長を、モードの基底から求めたいとき
→ 回路シミュレーションに渡すSパラメータを用意したいとき
別の手法が適している場面
広帯域の応答を一度に見たいとき:この手法は周波数領域の解法であり、波長依存性は掃引で求めます。広い帯域の応答を一度に得たい場合は、2.5Dの時間領域解法のほうが向きます。
放射や基板への漏れが支配的な系:放射や基板への漏れがある系では、それらのモードも基底に含める必要があり、解析は複雑になります。エッジカプラのように基板への漏れを含む構成では、モードの探索範囲を手で指定することになります。
伝搬軸を前提にできない構造:リング共振器やフォトニック結晶共振器のように、平面内を伝搬軸を決めずに光が回る構造は対象になりにくい構造です。伝搬軸を仮定しない解法が向きます。
最終的な精度の確認:より時間のかかる3次元の時間領域計算は、この手法の結果を検証する側に置きます。設計の探索と最終確認は分けて考えるのが実務的です。
適用対象
代表的な適用対象
テーパとスポットサイズ変換器
テーパ長を掃引して透過が飽和する長さを求め、必要な素子長を決めます。
MMIカプラ
中心部の長さを掃引して、分岐比が設計値になる長さを求めます。
エッジカプラ
ファイバとチップを結ぶテーパの長さを掃引し、基板への漏れも含めて最適点を求めます。
回路モデル用のSパラメータ抽出
波長掃引でSパラメータを求め、回路シミュレーションの素子として使います。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 構造と材料 | 伝搬方向に並ぶ区間の3次元形状と、各領域の材料 |
|---|---|
| セル設定 | セルグループの数、各グループの範囲とセル数、サブセル法(なしまたはCVCS) |
| モード数 | 全セル共通のモード数、または区間ごとに指定するモード数 |
| ポート | 両端のポートの位置と範囲、入射するモード、試行モードの本数 |
| 断面メッシュと境界条件 | 断面のメッシュ幅と、PMLなどの境界条件 |
| 掃引条件 | 長さ掃引の範囲と点数、波長掃引の範囲、モード収束掃引の設定 |
OUTPUT
| 散乱行列 | ポート間のSパラメータと、そこから求まる透過と反射 |
|---|---|
| 場の分布 | モニタで再構成した素子内部の場の分布 |
| ポートのモード情報 | ポートモードの実効屈折率と場分布、ポートモードのパワー |
| 掃引の結果 | 長さ掃引、波長掃引、モード収束掃引に対する散乱行列。群遅延も選べます |
| 誤差診断 | エネルギー保存の破れ、モード基底の展開誤差、界の不連続、各モードの前進・後退成分 |
進めかた
実際の進めかた
構造とポートを置く
素子の3次元形状を作り、解析領域の両端にポートを置いて、入射するモードを選びます。
セルグループを分ける
入力部、変化する区間、出力部のように機能で区間を分け、形が連続的に変わる区間ではセル数を増やすか、サブセル法を使います。
モード数を決める
モード収束掃引でモード数を変えながら散乱行列を比べ、結果が動かなくなる本数を選びます。セル数と断面メッシュも同様に確かめます。
長さを掃引して評価する
区間の長さを掃引して透過を評価し、必要に応じて波長掃引でSパラメータの波長依存性を求めます。
誤差診断を必ず確認してください。エネルギー保存の破れ、界の不連続、モード基底の展開誤差が表示されます。展開誤差が大きい場合は、その境界の両側でモード数を増やします。設計を絞り込んだあとは、3次元の時間領域計算で結果を検証します。
関連手法との比較
関連する解析手法との使い分け
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| EME(本手法) | 本手法 | 伝搬方向に形が変わる長い素子 | セルごとの断面モードを基底に、散乱行列を双方向に連結して素子全体の伝搬を求めます。長さの掃引が安価です。 |
| FDE | 前段 | 固定した断面のモード | 断面の固有値問題を解いてモードを求めます。この手法が基底として使うモードは、同じ解法で計算されます。 |
| varFDTD | 代替 | 平面型の広い構造と広帯域 | 垂直方向をたたみ込んだ2次元の時間領域計算です。広帯域の結果を一度に得たい場合や、伝搬軸を決められない構造に向きます。 |
| FDTD | 補完 | 最終的な精度の確認 | 解析領域を体積として離散化します。計算は重くなりますが、この手法の結果を検証する用途に向きます。 |
対応製品
この手法を提供する製品
導波路と光結合の解析に向けた商用ソフトウェア環境です。固有モード展開法に加えて、有限差分固有モード解析と2.5D変分FDTD法のソルバーを同じ環境に備え、断面のモードから素子全体の伝搬までを続けて扱えます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Lumerical MODE
FAQ
よくある質問
長い導波路素子の伝搬解析から、ご相談いただけます
素子の構成と決めたい寸法をお知らせいただければ、適切な手法と製品をご提案します。
