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物理光学伝搬(POP)

ビームを複素振幅の配列として表し、面から面へ回折を含めて伝搬させる手法です。光線追跡では失われる位相の情報を保ったまま運べます。

対象

コヒーレントなビーム伝搬

扱い

複素振幅の配列として伝搬

対応製品

Ansys Zemax OpticStudio

振幅と位相をもつ複素振幅の場が、有限な格子上で標本化されて面から面へ伝搬されることを示す模式図

どういう手法か

光線ではなく、場を運ぶ

光線追跡には、光線どうしの干渉が含まれません。ビーム径が小さい、アパーチャで大きく切られる、中間の面での分布そのものを知りたい。こうした場面では、振幅と位相を持つ場として伝搬させる必要があります。

この手法は、面順を仮定したモードの解析として、指定した開始面から終了面までの区間で、コヒーレントな光の場を面から面へ運びます。場は点の配列として表し、各点に複素振幅を持たせます。配列の大きさ、サンプリング点数、縦横比は利用者が決めます。面から面への伝搬には、フレネル回折によるものと角スペクトルによるものの二つのアルゴリズムがあり、数値的な精度が高くなるほうが自動的に選ばれます。

前提もあります。近軸的な伝搬を仮定しており、目安として半角20度程度を超えて発散するビームは前提から外れます。面に垂直な方向の場の成分をゼロとみなすため、強く収束または発散するビームでも仮定が崩れます。

仕組み

フレネル回折と角スペクトル

回折を含む伝搬の扱いは、フーリエ光学の枠組みで整理されています。平面波の角スペクトルとしての伝搬、フレネル近似、フラウンホーファー近似という段階があり、対象と伝搬距離に応じて使い分けられます。この手法が持つ二つのアルゴリズムは、このうち前二者にあたります。

数値計算としては、高速フーリエ変換にもとづく角スペクトル伝搬は、角スペクトルが一様な格子上で標本化されていることを要求します。この条件が崩れると補間が必要になり、補間による誤差は幾何配置が斜めになるほど大きくなります。サンプリングの設計が結果の信頼性を決めるのは、このためです。

実務上の注意は、標本化と計算領域の取り方に集約されます。サンプリング点数は利用者が決め、利用者インターフェースからは16,384×16,384点まで指定できます。計算領域の幅はビームより十分に広く取る必要があり、ビームに対して領域が狭いと、場の裾が計算領域に収まらず、折り返しの原因になります。系のアパーチャによる切断は場の上で扱えますが、それは計算領域が足りていることが前提です。伝搬させたあとに最終面だけを見るのではなく、面を追ってビームの状態を確認し、エイリアシングなどの異常がないことを確かめる手順が示されているのは、このためです。

場の表現波面を点の配列として表し、各点に複素振幅を持たせます。配列の大きさ、点数、縦横比を決めることが前提条件の設定にあたります。
二つの伝搬面から面への伝搬には、フレネル回折によるものと角スペクトルによるものがあります。どちらを使うかは自動的に選ばれます。
標本化と計算領域サンプリング点数と計算領域の幅は利用者が決めます。領域はビームより十分に広く取り、面ごとにエイリアシングの有無を確認します。高速フーリエ変換による角スペクトル伝搬は一様な格子上での標本化を前提とし、前提が崩れると補間による誤差が入ります。
近軸の仮定近軸的な伝搬を仮定し、面に垂直な方向の場の成分をゼロとみなします。強く収束または発散するビームでは前提が崩れます。

この手法の強み

この手法が選ばれる理由

位相を保って運べる

振幅と位相を同時に伝搬させるため、中間の任意の面で場そのものを取り出せます。像面での回折像だけを与える計算とは、得られる情報が異なります。

切断とその先を扱える

アパーチャによる切断を場の上で扱えるため、切られたあとの回折を含む伝搬をそのまま追えます。

外部の場を受け取れる

計算格子上の複素振幅として表されているため、別の解析で求めた場を入力として受け取り、光学系へ通せます。

使いどころ

向く場合と、向かない場合

向いている場面

→ コヒーレントなビームを扱い、回折が結果を決めるとき

→ 中間の面での振幅と位相の分布そのものが必要なとき

→ アパーチャによる切断の影響を追いたいとき

→ 波長スケールの構造の解析で求めた場を、マクロな光学系へ通したいとき

別の手法が適している場面

経路を仮定しない要素を含む系:経路を仮定しない要素を含む系では、この手法の結果は一般に精度が保証されません。面順を仮定した等価なモデルに置き換えて扱います。

幾何収差が支配的な系:回折より収差の影響が大きい系では、スポットダイアグラムのような幾何的な指標で足ります。

像面の回折像だけが必要な場合:結像系の像面での回折像だけが必要なら、より軽い回折計算が用意されています。

大きく発散するビーム:目安として半角20度を超えて発散するビームは近軸の仮定から外れるため、厳密な電磁界解析や遠方界への投影が適しています。

適用対象

代表的な適用対象

レーザービームの伝搬

ガウシアンビームを実際の光学系に通したときの振る舞いを評価します。

波長スケール構造との連携

メタレンズや回折格子の解析で求めた場を、光学系へ通します。

シリコンフォトニクス

チップ側の解析と光学系の解析の間で場を受け渡します。

計測光学

干渉計のようにコヒーレントな光を扱う系で、ビームの状態を確認します。

入力と出力

何を与えると、何が得られるか

INPUT

伝搬区間 開始面と終了面、波長と視野、偏光の設定
入射ビーム ガウシアン、トップハット、外部ファイルから読み込んだ場
サンプリング 縦横のサンプリング点数と計算領域の幅。ビームより十分広く取ります
光学系 面データとアパーチャ。利用者定義のアパーチャも扱えます

OUTPUT

強度分布 伝搬させたビームの強度分布
位相分布 同じ面における位相の分布
ビームファイル 任意の面での複素振幅を書き出したZBFファイル
面ごとの経過 面を追って確認できるビームの状態

進めかた

実際の進めかた

01

系と伝搬区間を決める

面順を仮定したモデルを用意し、開始面と終了面、波長と視野を指定します。

02

ビームとサンプリングを設定する

ビーム種別と幅を与え、計算領域をビームより十分広く取ったうえでサンプリング点数を決めます。

03

伝搬させる

指定した区間でビームを伝搬させ、強度と位相を取得します。

04

面ごとに確認する

最終面だけを見ずに面を追って状態を確認し、エイリアシングなどの異常がないことを確かめます。

最終面の結果だけを見て判断しないでください。サンプリングが足りないと、途中の面で生じた異常がそのまま最終面に現れます。手順の中で最も時間を使うべきなのは02です。

関連手法との比較

関連する解析手法との使い分け

手法 関係 主な対象 使い分け
物理光学伝搬(本手法) 本手法 コヒーレントな場の伝搬 面順を仮定したモードのなかで、複素振幅の場を面から面へ伝搬させ、中間の面でも振幅と位相が得られます。
シーケンシャル光線追跡 補完 面順を仮定できる結像系 同じ面順のモデルの上で、光線どうしの干渉を含まない評価を行います。収差が支配的な段階はこちらが効率的です。
ノンシーケンシャル光線追跡 代替 経路が幾何で決まる系 多数の光線に沿って光束を積み上げます。経路を仮定しない要素を含む系では複素振幅の伝搬は精度が保証されないため、置き換えて使えるものではありません。
FDTD 前段 波長スケールの構造 構造そのものの応答は電磁界解析で求め、その場をビームファイルとして受け渡します。
Lumerical MODE 前段 導波路の断面モード 伝搬方向に一様な構造の断面モードを求める手法です。モード分布をビームファイルとして受け渡せます。

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対応製品

この手法を提供する製品

物理光学伝搬は、この製品の面順を仮定したモードにおける解析機能のひとつです。伝搬させた場をビームファイルとして書き出し、他の解析との間でやり取りできます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。

Ansys Zemax OpticStudio

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FAQ

よくある質問

いつ光線追跡から切り替えますか。コヒーレントなビームを扱い、回折が結果を決める場面です。中間の面での振幅と位相そのものが必要な場合も、複素振幅としての伝搬が要ります。逆に幾何収差が支配的な系では、光線追跡のほうが軽く済みます。
サンプリングはどう決めますか。計算領域はビームより十分広く取り、点数を変えて結果が安定することを確認します。ビームが配列の何割まで占めてよいかといった定量的な基準は、参照した公開資料には示されていません。文書化された例ではウエスト径のおよそ十数倍の幅が取られていますが、これは例であって基準ではありません。
二つの伝搬アルゴリズムはどう選ばれますか。数値的な精度が高くなるほうが自動的に選ばれます。切り替えの判定基準は公開資料に示されていません。アキシコンのようにサグの大きな面では自動選択がうまく働かないことがあり、その場合は手動で設定します。
他の解析との受け渡しはできますか。できます。ZBFファイルを介して複素振幅の場をやり取りします。取り込みの際に格子は2のべき乗に合わせて標本化し直され、原点も取り直されるため、必要に応じて位置を調整します。レイリー長を超えた領域では両者の位相の基準が異なるため、遠方界へ投影してから受け渡すことが推奨されています。

参考情報

最終更新日

2026-08-18

技術監修

LightBridgeテクニカルサポート

参照した資料

Ansys Zemax OpticStudio 2025 R1ユーザーガイド(Physical Optics Propagation)Exploring Physical Optics Propagation (POP) in OpticStudio(Ansys Opticsナレッジベース)Using Physical Optics Propagation (POP), Part 1: Inspecting the beams(Ansys Opticsナレッジベース)ZBF Import/Export(Ansys Opticsナレッジベース)

回折を含む伝搬評価から、ご相談いただけます

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