どういう手法か
順序ではなく、幾何が経路を決める
物体は面または中身の詰まった立体として、絶対座標のなかに位置と向きを個別に持たせて配置します。光線がどの物体のどこに当たるかは、物体の位置と特性、そして光線の方向だけで決まります。同じ物体に何度当たっても、一度も当たらなくても構いません。
界面では光線を反射成分と透過成分に分けられます。この分岐には偏光計算が必要です。分岐の代わりに、反射と透過のどちらか一方をそれぞれの成分の比に比例する確率で無作為に選ぶ扱いも用意されており、これはモンテカルロ的な枝の選択にあたります。散乱する面では、設定した本数だけ散乱光線が生成されます。
光線本数は光源ごとに指定します。解析用と表示用を別に持てるため、図の見やすさと解析の精度を分けて管理できます。
仕組み
交差を探し、分岐させ、積み上げる
経路は入力されません。光線は現在の位置と方向から次に交差する物体を探し、その面の光学特性に従って反射、屈折、散乱します。これを打ち切りの条件に達するまで繰り返し、多数の光線について積み上げた結果が検出面の分布になります。
この積み上げ方が、前方モンテカルロ光線追跡と呼ばれる所以です。分岐と散乱は光線を枝分かれさせるため、一本の光線から生じるセグメントの数は急速に増えます。光線あたりの交差回数とセグメント数に上限を置き、上限に達した光線をそこで打ち切るのは、このためです。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
想定していない経路も現れる
面の順序を与えないため、多重反射、全反射、機構部品からの散乱といった、設計者が事前に想定していない経路もそのまま結果に現れます。
面の性質を測定値で持ち込める
ランバート散乱、ガウス散乱、ABgモデル、表形式のBSDFデータ、利用者定義のモデルを面ごとに割り当てられるため、粗さや塗装の効果を測定値に基づいて扱えます。
狙った対象に光線を集められる
対象へ向けて必ず散乱させる重点サンプリングを使うと、同じ計算時間で目標に到達する光線を大きく増やせます。強度は対象が張る立体角内での散乱分布の平均で重み付けされます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 照明系や導光板のように、光の通る順序を事前に決められない系を扱うとき
→ プリズム、コーナーキューブ、ライトパイプ、CADから取り込んだ形状を含む系を扱うとき
→ 多重反射や全反射、機構部品からの散乱まで含めて評価したいとき
→ 迷光の経路を網羅的に洗い出したいとき
別の手法が適している場面
面順を仮定できる結像系:物体面から像面へ順に進む結像系やアフォーカル系は、シーケンシャル光線追跡が扱う領域です。
コヒーレントな場の伝搬:経路を仮定しない要素を含む系では、複素振幅の伝搬は一般に精度が保証されません。面順を仮定した等価なモデルの上で物理光学伝搬を使います。
ゴーストの当たりをつける段階:どの面の組み合わせが効くかを手早く知りたいだけなら、面順を仮定した一回反射と二回反射の洗い出しのほうが速く済みます。
組立ばらつきの影響:誤差に対する性能の広がりを見るなら、公差解析として組み立てます。
適用対象
代表的な適用対象
照明系
光源から検出面までの照度分布と配光を設計します。
ライトパイプ・プリズム
全反射や多重反射で光を導く素子を扱います。
カメラモジュールの迷光
検出面自身の反射を含むゴーストと散乱を評価します。
散乱が支配的な系
実測の散乱データやABg係数を機構部品の面に与えて評価します。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 三次元形状 | 光学素子と機構部品。CADから取り込んだ形状を含みます |
|---|---|
| 光源 | 点光源から三次元的な発光分布まで。解析用と表示用の光線本数を別に指定します |
| 面の特性 | コーティングと散乱モデル(ランバート、ガウス、ABg、BSDF、利用者定義) |
| 追跡設定 | 分岐と偏光の有効化、光線あたりの交差回数とセグメント数の上限 |
OUTPUT
| 検出面の分布 | 非コヒーレント照度、コヒーレント照度、コヒーレント位相 |
|---|---|
| 放射量・測光量 | 放射強度、放射輝度、および色を含む測光結果 |
| 体積の分布 | 三次元のボクセルに蓄積した光束の分布 |
| 経路データ | 条件で絞り込める光線経路。寄与の大きい経路を特定できます |
進めかた
実際の進めかた
三次元モデルを組む
光源、光学素子、機構部品、検出器を三次元空間に配置します。面順を仮定したモデルからの変換もできます。
面の特性を割り当てる
各面にコーティングと散乱モデルを与えます。届きにくい対象がある場合は重点サンプリングの対象を指定します。
分岐と散乱を有効にして追跡する
光線の分岐と偏光を有効にし、交差回数とセグメント数の上限を必要な水準まで引き上げて追跡します。
経路を分解して読む
検出面の分布を確認し、経路を絞り込んで寄与の大きい経路を特定します。
分岐と散乱を有効にするとセグメント数が急増し、上限に達した光線はそこで打ち切られます。上限を上げずに追跡した結果は信用できません。手順の中で最も時間を使うべきなのは03です。
関連手法との比較
関連する解析手法との使い分け
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| ノンシーケンシャル光線追跡(本手法) | 本手法 | 経路が幾何で決まる系 | 物体の配置と光線の方向だけで交差が決まり、反射、屈折、分岐、散乱をそのまま扱って検出器に積み上げます。 |
| シーケンシャル光線追跡 | 代替 | 面順を仮定できる結像系 | 各面を一度ずつ順に通過する前提で、収差の評価と最適化を高速に回します。 |
| 迷光解析 | 後段 | 目的外経路の特定 | この追跡を土台に、分岐と散乱と重点サンプリングと経路の絞り込みを組み合わせた進めかたです。 |
| 物理光学伝搬(POP) | 補完 | コヒーレントな場の伝搬 | 光束を光線に沿って積み上げるのではなく、複素振幅の場を伝搬させます。経路を仮定しない要素を含む系では精度が保証されません。 |
| 公差解析 | 後段 | ばらつきに対する性能変動 | 経路を仮定しない系では、検出器の値から組み立てた評価関数を基準として誤差の影響を見積もります。 |
対応製品
この手法を提供する製品
ノンシーケンシャル光線追跡は、この製品の解析モードのひとつとして提供されます。面順を仮定したモデルからの変換や、両者を組み合わせた系の構成にも対応します。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Ansys Zemax OpticStudio
FAQ
よくある質問
照明・迷光・複雑な光路解析から、ご相談いただけます
系の構成と評価したい指標をお知らせいただければ、適切な手法と進めかたをご提案します。
