どういう手法か
面の順序を前提に置ける系のための手法
光線は、あらかじめ定義した面の並びを順にたどり、各面を一度だけ通過して物体面から像面へ進みます。この前提が置ける系、すなわち結像光学系とアフォーカル系が、この手法の対象です。
モデルは面を並べた表として組み立てます。面ごとに曲率半径、厚み、材料、有効半径、コーニック定数を与え、面の間隔は直前の面からの距離として指定します。系全体は絶対座標に置かれた部品の集合ではなく、局所座標の連鎖として表されます。
前提は同時に制約でもあります。面を外れる光線、同じ面に二度当たる光線、意図しない経路をたどる光線は、この枠組みでは表現できません。分かれ目は反射の有無ではなく、面の順序を前提として置けるかどうかです。望遠鏡のような反射系も、順序が決まっていればこの枠組みで扱えます。
仕組み
定義した面を順番にたどり、位置・方向・光路長を追う
追跡は、あらかじめ定義した面の並びに沿って進みます。光線は物体面から像面へ向かい、各面を定義した順序で一度ずつ通過します。面ごとに屈折または反射を適用して光線の位置と方向を更新し、面の間隔にそって光路長を積み上げていきます。
積み上げた光路長の差、すなわち光路差を波長で割った量が波面収差であり、射出瞳における実際の波面と理想的な参照球面とのずれとして定義されます。波面収差を視野座標と瞳座標の関数として展開すると、古典的な収差係数が得られます。四次の係数、すなわち一次の収差係数はザイデル和で与えられます。残った波面誤差はゼルニケ多項式に分解され、球面収差、コマ、非点収差といった項として読み取れます。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
計算量が面数で決まる
一本の光線が各面を一度ずつ通過するため、交点計算の回数が面数で決まります。多数の光線と多数の設計案を短い時間で評価できます。
問題を収差として切り分けられる
光路差を波面収差として扱い、視野と瞳の関数に展開することで、球面収差やコマ、非点収差といった項別に設計上の問題を切り分けられます。
そのまま設計変数になる
面の形状や間隔や材料は、そのまま動かせる量です。評価量を目標に近づける最適化に直接つなげられます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 写真レンズ、望遠レンズ、顕微鏡、望遠鏡、リレーレンズ、分光器のように、光が決まった順序で面を通過する系を扱うとき
→ アフォーカル系の性能を評価するとき
→ 評価量を決めて、面データを変数として最適化したいとき
→ 二回反射によるゴースト経路を、まず概算として把握したいとき
別の手法が適している場面
面の順序を決められない系:プリズム、コーナーキューブ、ライトパイプ、CADから取り込んだ形状のように、光線がどの面にどの順で当たるかを事前に決められない系は、ノンシーケンシャル光線追跡が扱います。反射があるかどうかではなく、順序を決められるかどうかが分かれ目です。
迷光経路の網羅:面順を仮定した追跡で扱えるのは二回反射までの概算です。経路を網羅して評価する段階は迷光解析の領域です。
コヒーレントな場:中間の面での振幅と位相そのものが必要な場合は、物理光学伝搬が適しています。
製造ばらつきの影響:公称値ではなく誤差に対する性能の広がりを見るなら、公差解析として組み立てます。
適用対象
代表的な適用対象
カメラ・撮像光学
写真レンズや望遠レンズの結像性能を設計します。
計測光学
顕微鏡、望遠鏡、リレーレンズ、分光器の結像性能を詰めます。
AR/VR光学系
接眼光学系の設計と収差補正に使います。
構造・熱と連成した評価
熱や構造の解析で求めた変形を面に写し、性能の変化を評価します。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 面データ | 曲率半径、厚み、材料、有効半径、コーニック定数 |
|---|---|
| 系の条件 | 開口、視野点、波長 |
| 変数 | 最適化で動かす面データの指定 |
| 評価関数 | 目標と制約を表す評価項目の並び |
OUTPUT
| 幾何的な指標 | スポットダイアグラム、タンジェンシャルとサジタルの光線収差図 |
|---|---|
| 波面 | 光路差として表した波面収差 |
| 回折を含む指標 | 高速フーリエ変換法とホイヘンス積分法によるMTF、および回折点像分布関数 |
| 像の評価 | 幾何的な像シミュレーションと、回折を含む像シミュレーション |
進めかた
実際の進めかた
面の並びを入力する
面ごとに曲率半径、厚み、材料、口径を与え、開口と視野と波長を設定します。
変数と評価関数を決める
動かす面データを変数として指定し、目標と制約を表す評価関数を組み立てます。
最適化を回す
評価関数を小さくする局所最適化を実行し、収束した解を確認します。
結果を評価し直す
スポット、光路差、MTFを最適化の前後で比較し、必要なら評価関数の組み立てに戻ります。
評価関数の組み立てが最適化の結果をほぼ決めます。手順の中で最も時間を使うべきなのは02です。
関連手法との比較
関連する解析手法との使い分け
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| シーケンシャル光線追跡(本手法) | 本手法 | 面順を仮定できる結像系 | 各面を一度ずつ順に通過する前提で追跡し、収差の評価と最適化を高速に回します。 |
| ノンシーケンシャル光線追跡 | 代替 | 経路が幾何で決まる系 | 物体の位置と特性、光線の方向だけで交差が決まります。同じ物体に何度当たっても構いません。 |
| 物理光学伝搬(POP) | 補完 | コヒーレントな場の伝搬 | スポットダイアグラムは光線どうしが干渉しません。振幅と位相が干渉する場が必要ならこちらです。 |
| 公差解析 | 後段 | 製造ばらつきの影響 | 最適化した公称設計をそのまま入力として、誤差に対する性能の広がりと歩留まりを見積もります。 |
| 迷光解析 | 後段 | 目的外経路の網羅的な評価 | 面順を仮定した追跡で得られるのは二回反射までの概算です。設計を変換して、経路を網羅する評価に進みます。 |
対応製品
この手法を提供する製品
シーケンシャル光線追跡は、この製品の解析モードのひとつとして提供されます。面データの編集、評価関数による最適化、公差解析までを同じ環境で扱えます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Ansys Zemax OpticStudio
FAQ
よくある質問
結像光学系の設計・解析から、ご相談いただけます
設計対象と評価したい特性をお知らせいただければ、適切な手法と進めかたをご提案します。
