どういう手法か
単独の機能ではなく、組み立てかた
迷光とは、設計した経路を通らずに像面へ届く光を指します。発生の仕方は大きく二つです。視野外の強い光源からの光が機構部品や光学部品で散乱して像面に届く場合と、視野内の光がレンズ面で複数回反射してゴーストとして結像する場合です。
迷光解析は、単独の解析機能として存在するわけではありません。光線の分岐と散乱を有効にした経路を仮定しない追跡、面ごとの散乱モデル、重点サンプリング、そして追跡後の経路の絞り込み。これらを組み合わせた手順として成り立ちます。
面順を仮定した追跡でも、屈折面を反射面に置き換えることで一回反射と二回反射のゴースト経路を洗い出せます。ただしこれは概算です。多重反射、全反射、機構部品に由来する迷光まで含めるには、経路を仮定しない追跡が要ります。
仕組み
不要光の発生源・反射・散乱・経路をモデル化する
不要光は一つの機構から生じるわけではありません。面での正反射に由来するゴースト、コーティングの反射と透過、粗い面や機構部品での散乱、そして多重反射や全反射。これらが重なって、設計した経路を通らない光が像面に届きます。したがってモデルには光学素子だけでなく鏡筒や機構部品まで含め、開口を主光線と周辺光線が想定どおり通過できるかも併せて確認します。
散乱は双方向散乱分布関数として与えます。面ごとに、ランバート散乱、ガウス散乱、ABgモデル、表形式の散乱データ、利用者定義のモデルから選びます。ABgモデルは方向余弦の関数として書かれ、等方的な表面粗さによる散乱に適した形をしています。
散乱理論の側から見ると、粗い面での散乱は方向余弦空間における線形システムとして定式化できます。面が十分に滑らかであるという条件のもとでは、散乱関数は表面粗さのパワースペクトル密度に比例します。ただしこの定式化の並進不変性は普遍的には成り立たず、入射角ごとに異なる伝達関数が必要になることが示されています。ある入射角で測った散乱特性を、別の入射角へそのまま外挿できるとは限りません。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
弱い経路を捉えられる
対象へ向けて必ず散乱させる重点サンプリングにより、同じ計算時間で目標に届く光線を大きく増やせます。強度は立体角内での散乱分布の平均で重み付けされるため、放射量としての正しさは保たれます。
原因を経路として名指しできる
追跡後に経路を絞り込めるため、どの面の組み合わせが効いているのか、どの機構部品が効いているのかを特定できます。
実測値を持ち込める
散乱特性を表形式のデータやABg係数として与えられるため、測定した面の性質をそのまま解析に反映できます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 視野外の強い光源からの光が、機構部品や光学部品での散乱を経て像面に届く可能性があるとき
→ 視野内の光がレンズ面で複数回反射し、ゴーストとして結像するとき
→ どの面の組み合わせや、どの部品が支配的かを名指しで特定したいとき
→ 反射防止膜や遮光構造の効きを、対策の前に見積もりたいとき
→ 面の粗さによって、正反射成分から散乱成分へ移る割合が無視できないとき
別の手法が適している場面
公称値での結像性能:誤差も目的外経路も含めない状態の収差やMTFを詰める段階は、シーケンシャル光線追跡が扱います。
配光そのものの設計:照度分布や配光を作り込むことが目的なら、ノンシーケンシャル光線追跡としての進めかたになります。
コヒーレントな場の伝搬:回折が支配的な伝搬は物理光学伝搬の領域です。ただし経路を仮定しない要素を含む系では精度が保証されないため、迷光の追跡を置き換えるものではありません。
波長スケールの散乱:微細構造そのものからの散乱や回折は電磁界解析で求め、その結果を面の散乱特性として与えます。
適用対象
代表的な適用対象
カメラモジュール
検出面自身の反射を含むゴーストと、逆光時の像質低下を評価します。
分光器
測定精度を左右する迷光の経路を特定します。
宇宙・リモートセンシング
太陽のような視野外の強い光源に対する影響を評価します。
車載照明・車載カメラ
筐体内の反射による見え方の劣化を確認します。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 三次元モデル | 光学素子に加えて鏡筒と機構部品まで含めた組立全体 |
|---|---|
| コーティング | 面ごとの反射防止膜。ゴーストを抑える主要な手段です |
| 散乱特性 | 面ごとの散乱モデルと係数。実測値はファイルから与えます |
| 追跡設定 | 分岐と偏光の有効化、交差回数とセグメント数の上限、重点サンプリングの対象 |
OUTPUT
| 検出面の分布 | 検出面上での迷光の空間分布 |
|---|---|
| ゴーストの一覧 | 瞳ゴーストと像ゴーストに分類した一覧。光線高さと焦点位置を伴います |
| 経路ごとの寄与 | 絞り込んだ経路と、寄与の大きい経路の順位 |
| 臨界光線の確認 | 各視野の主光線と周辺光線が想定どおり通過できるかの確認 |
進めかた
実際の進めかた
ゴースト経路を洗い出す
面順を仮定した状態で屈折面を反射面に置き換え、一回反射と二回反射のゴーストを瞳ゴーストと像ゴーストに分けて把握します。
経路を仮定しないモデルに移す
変換した光学系に鏡筒と機構部品を加え、面ごとにコーティングと散乱モデルを割り当てます。
分岐と散乱を有効にして追跡する
偏光計算と光線の分岐を有効にし、交差回数とセグメント数の上限を引き上げます。届きにくい対象には重点サンプリングを設定します。
経路を絞り込んで対策する
寄与の大きい経路を特定し、形状の見直しやコーティングの変更でその経路の影響を抑えます。
01の洗い出しは、すべての面が同じコーティングであると仮定した概算です。分岐と散乱を有効にするとセグメント数が急増し、上限に達した光線はそこで打ち切られます。手順の中で最も時間を使うべきなのは03です。
関連手法との比較
関連する解析手法との使い分け
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| 迷光解析(本手法) | 本手法 | 目的外経路の特定と定量化 | ゴースト、コーティング、散乱、機構部品を含めてモデル化し、経路ごとに寄与を分解します。 |
| ノンシーケンシャル光線追跡 | 前段 | 経路を仮定しない追跡そのもの | 迷光解析はこの追跡を土台にした進めかたです。追跡そのものは照度分布や配光の設計にも使います。 |
| シーケンシャル光線追跡 | 前段 | 面順を仮定した概算とモデルの供給 | 屈折面を反射面に置き換えて一回反射と二回反射のゴーストを洗い出し、その設計を変換して持ち込みます。多重反射や機構部品に由来する迷光は、この段階では扱えません。 |
| 物理光学伝搬(POP) | 補完 | コヒーレントな場の伝搬 | 分岐した多数の光線に沿って光束を積み上げるのではなく、一つの複素振幅の場を伝搬させます。 |
| 公差解析 | 補完 | ばらつきに対する性能変動 | 意図した性能の広がりを扱います。検出器の値を評価関数にすれば、迷光量のばらつきも対象にできます。 |
対応製品
この手法を提供する製品
迷光解析は、この製品の光線の分岐、散乱モデル、重点サンプリング、経路の絞り込みを組み合わせて進めます。単独の機能として切り出されているわけではありません。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Ansys Zemax OpticStudio
FAQ
よくある質問
迷光の原因特定から、ご相談いただけます
光学系と筐体の構成、気になっている症状をお知らせいただければ、評価の進めかたをご提案します。
