どういう手法か
参照球面からのずれとして、収差を測る
光路差は、ある光線の光路長と主光線の光路長の差として定義されます。OpticStudioはこの量を、それぞれの波長を単位として表し、系の射出瞳における光路長の差に還元して計算します。波面マップは、この誤差を瞳全体にわたって表示するものです。
基準は既定で、使用している波長の参照球面です。主波長の参照球面を基準にする設定に切り替えると、波長ごとの横ずれが誤差として現れます。射出瞳の形を反映して表示する設定もあり、これを外すと入射瞳の円形の座標で表示されます。
評価の基本は、瞳上の波面誤差そのものです。波面マップとPV値、RMS値だけで判断が付く場面も多くあります。収差の内訳が要るときに、瞳全体の分布を直交する多項式の組へ分解します。分解すると、分散、ストレール比、そして当てはめの残差も得られます。残差は、分解が十分かどうかを判断する材料になります。
仕組み
瞳上の波面誤差を評価し、必要に応じてゼルニケ多項式で分解する
分解は、波面解析に必ず伴う手順ではありません。まず波面マップで瞳全体の形を見て、PV値とRMS値で大きさをつかみます。どの収差がどれだけ効いているかを配分として扱いたいときに、ゼルニケ多項式へ進みます。OpticStudioには3種類の組があります。標準の組はNollの表記にもとづく正規直交系で、各項の係数の大きさがその項のRMS寄与にそのまま対応します。最大231項まで扱えます。フリンジの組は正規直交ではなく、瞳の縁で大きさが1になるように規格化されており、最大37項です。環状の組はNollの表記にMahajanによる環状瞳への拡張を加えたもので、遮蔽比を指定して使います。遮蔽比が0のとき、環状の組は標準の組と一致します。
分解の前提は、正規化した瞳座標の上で光線が一様に並んでいることです。評価する面で光線が一様に標本化されていないと結果は正しくありません。回転対称で、球面、円錐面、2次または4次の非球面だけでできた系であれば、ザイデル係数によって古典的な収差の内訳を確かめられます。この計算が有効なのは、その条件を満たす系に限られます。座標のずらしや回折格子、回転対称でない面を含む系では使えません。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
収差の内訳が数値になる
瞳全体の分布を直交する成分に分解するため、どの収差がどれだけ効いているかを配分として扱えます。正規直交な組では、係数がそのままRMS寄与になります。
瞳の形に合わせられる
遮蔽のある環状の瞳には、環状の多項式の組が用意されています。実際の瞳の上で直交性が保たれるため、係数の解釈が崩れません。
計測との突き合わせに使える
フリンジの組は干渉計測の分野で広く使われている規約です。計測データと同じ規約で係数を出せるため、設計値と実測値を並べて比べられます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 回折限界に近い系で、性能を波長単位の誤差として語りたいとき
→ どの収差がどれだけ効いているかを、成分の配分として把握したいとき
→ 干渉計測のデータと同じ規約で、設計値と実測値を比べたいとき
→ 遮蔽のある環状の瞳をもつ系を、瞳の形に合った規約で評価したいとき
→ 波面誤差を目標にして設計を詰めたいとき
別の手法が適している場面
収差が非常に大きい系:波面誤差が数十波長にもなる系では、波面としての記述は扱いにくくなり、ストレール比の近似も成り立ちません。スポット半径や幾何的なコントラストの指標に戻ります。
コントラストの仕様に直結させたいとき:RMS波面誤差は、空間周波数ごとのコントラストにそのまま換算できるものではありません。解像の仕様には変調伝達関数を使います。
回転対称でない系でのザイデル係数:ザイデル係数の計算は、回転対称な球面、円錐面、2次または4次の非球面だけでできた系に限って有効です。座標のずらしや回折格子、自由曲面を含む系では、波面マップとゼルニケ係数を使います。
コヒーレントなビームの伝搬:この評価が扱うのは、1つの面における瞳の収差の状態です。ビームが伝搬の途中で実際にどうなるか、ファイバにどれだけ結合するかは、場そのものを運ぶ物理光学伝搬の領域です。
適用対象
代表的な適用対象
結像光学系の収差配分
どの収差がどれだけ効いているかを成分に分け、設計と製造の配分を決めます。
干渉計測との突き合わせ
計測で使われる規約に合わせて係数を出し、設計値と実測値を並べて比べます。
環状の瞳をもつ反射光学系
遮蔽比を指定した環状の多項式で、瞳の形に合った直交性を保ったまま評価します。
波面誤差を目標にした設計
RMS波面誤差やゼルニケ係数をオペランドに入れ、設計を目標に近づけます。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 標本の細かさ | 瞳を切る光線格子の細かさ。正規化した瞳座標の上で光線が一様に並んでいることが前提です |
|---|---|
| 視野と波長 | 評価する視野点と波長 |
| 参照の設定 | 使用波長の参照球面か主波長の参照球面か、射出瞳の形を反映するかどうか |
| 多項式の設定 | 標準、フリンジ、環状の別、最大項数、環状の場合は遮蔽比 |
| 評価面 | 像面、または途中の面 |
| 部分開口 | 瞳の一部だけを対象にする場合の中心と半径 |
OUTPUT
| 波面マップ | 瞳全体にわたる波面誤差の2次元分布 |
|---|---|
| 光路差の断面 | 瞳の2つの断面に沿った光路差の曲線 |
| ゼルニケ係数 | 選んだ組と項数に応じた係数の表。波長を単位とします |
| 要約する数値 | PV値、RMS値、分散、ストレール比、当てはめの残差と最大誤差 |
| 走査の結果 | 視野に対するゼルニケ係数の変化、視野・波長・焦点ずれに対するRMS波面誤差 |
進めかた
実際の進めかた
評価面と参照を決める
像面で評価するのか途中の面で評価するのかを決め、参照する球面をどちらにするかを選びます。
断面と全体を見る
まず光路差の断面で大きさをつかみ、次に波面マップで瞳全体の形を見ます。断面だけでは瞳の一部しか分からない点に注意します。
必要に応じて分解する
収差の内訳が要る場合は、瞳の形に合う組を選び、項数を決めて係数を求めます。PV値、RMS値、ストレール比、当てはめの残差を確認します。内訳が不要なら、この段は省けます。
視野と焦点で走査する
視野に対する係数の変化と、視野・波長・焦点ずれに対するRMS波面誤差を確かめます。
分解の前提は、正規化した瞳座標の上で光線が一様に並んでいることです。標本を細かくして係数とRMS値が動かなくなることを確かめてください。当てはめの残差が大きい場合は項数が足りていません。なお、視野に対するゼルニケ係数の走査では、けられの係数は無視されます。偏光による位相が1波長を超える場合、位相のつなぎ直しは行われないため、波面マップに急な段差が現れます。
関連手法との関係
関連する解析手法との役割分担・連成
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| 波面解析(本手法) | 本手法 | 射出瞳での収差の状態 | 参照球面からのずれを測り、瞳全体の分布とPV値・RMS値として表します。内訳が要る場合はゼルニケ多項式へ分解します。 |
| MTF | 後段 | コントラストの仕様 | 波面のデータから点像分布が求まり、そこからコントラストの指標が導かれます。仕様として語る段階の指標です。 |
| 結像性能評価 | 補完 | 性能の全体像 | スポット、点像分布、包含エネルギー、見えかたなど、瞳の収差以外の見かたをまとめて扱います。 |
| 物理光学伝搬 | 代替 | 伝搬の途中の場 | 複素振幅の場を面から面へ運びます。ビームウエストの移動やファイバ結合、開口の縁で生じる回折のリングはこちらの領域です。 |
対応製品
この手法を提供する製品
結像、照明、レーザー系の設計と解析に使われる商用ソフトウェアです。波面マップとゼルニケ係数による収差の評価に加えて、結像性能の指標、最適化、公差解析を同じ環境に備えます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Ansys Zemax OpticStudio
FAQ
よくある質問
波面誤差による性能評価から、ご相談いただけます
光学系の構成と評価したい収差をお知らせいただければ、評価の進めかたをご提案します。
