どういう手法か
層構造から、利得を導く
井戸幅、バリアの組成、歪み。これらが閉じ込め準位を決め、利得スペクトルのピーク波長と大きさを左右します。試作の前に層構造を検討するには、この関係を計算で追える必要があります。
対象は成長方向の一次元の層構造です。キャリア密度、温度、バイアス電界を動作条件として与えると、サブバンドと波動関数、利得と自然放出の係数、そして複素屈折率の変化が得られます。利得と自然放出はTEとTMに分けて得られます。
前提は限定的です。解くのは成長方向の一次元の層構造で、積層は横方向に無限に続くとみなし、面内は等方と仮定します。メサ幅や横方向の閉じ込め、デバイス全体のキャリア輸送はこの手法の外側にあり、そこは別の手法から受け取ります。半導体デバイスを3次元で解く汎用の手法ではありません。
仕組み
電子状態と光学遷移から、利得・自然放出を求める
k・p法は、周期ポテンシャル中の電子と正孔の運動を、バンド端まわりの有効質量的な方程式で記述する方法です。縮退したバンドを扱う場合、記述は単一の方程式ではなく連立した微分方程式の組になります。4×4、6×6、8×8という選択肢は、どのバンドまでを連立に含めるかの違いにあたります。
量子井戸では、この方程式を成長方向の閉じ込めポテンシャルのもとで解き、サブバンドの準位と包絡関数、すなわち電子と正孔の状態を求めます。成長方向は差分で離散化し、面内は等方と仮定します。歪みは変形ポテンシャルを通じてハミルトニアンに加わり、バンド端と有効質量を変えます。
利得は、こうして求めた電子状態のあいだの光学遷移から導きます。伝導帯と価電子帯の状態間の遷移行列要素と、キャリア密度から決まる擬フェルミ準位のもとでの占有確率にもとづいて、誘導放出と自然放出の係数をTEとTMに分けて計算します。バンド内の散乱はローレンツ型の広がりとして与えます。屈折率の変化は、こうして求めたスペクトルからクラマース・クローニッヒ関係を通じて得られます。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
量子閉じ込めを前提にした量が得られる
サブバンドの準位、波動関数、光学遷移行列要素といった、連続体の輸送モデルからは出てこない量を直接求められます。
偏光と動作条件で分けて得られる
誘導放出と自然放出をTEとTMに分け、キャリア密度と温度の関数として求められます。単一の動作点ではなく、条件でパラメータ化された利得が得られます。
精度と計算量を選べる
連立に含めるバンドの範囲を選べます。伝導帯を放物線とみなす近似で足りるのか、伝導帯と価電子帯の結合まで含める必要があるのかを、対象に応じて決められます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 量子井戸レーザーの層構造を検討したいとき
→ 半導体光増幅器の利得スペクトルを見積もりたいとき
→ 量子井戸を用いた電界吸収型変調器を評価したいとき
→ マイクロLEDの活性層で自然放出のレートを求めたいとき
→ 利得のキャリア密度依存性と温度依存性を確認したいとき
別の手法が適している場面
デバイス全体のキャリア輸送:井戸への注入効率や電流電圧特性は、ドリフト拡散解析が扱う領域です。キャリア密度と電界はそちらから受け取ります。
導波路のモード:モード分布、閉じ込め係数、実効屈折率はモード解析が求めます。実効屈折率はこの手法への入力です。
レーザー全体の動特性:しきい電流やL-I特性、時間応答は、回路レベルの解析が扱う領域です。
III-V族以外の材料系:対象は主にIII-V族の閃亜鉛鉱型とウルツ鉱型の結晶です。それ以外の材料系には別の枠組みが必要です。
適用対象
代表的な適用対象
半導体レーザー
InP系やGaAs系の量子井戸レーザーについて、層構造の設計に用います。
半導体光増幅器
利得スペクトルの帯域と大きさを評価します。
電界吸収型変調器
量子井戸を用いた変調器で、電界による吸収の変化を評価します。
マイクロLED
窒化物系の活性層について、自然放出のレートを求めます。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 層構造 | 各層の厚さと組成、井戸とバリアの繰り返し |
|---|---|
| 材料 | k・p法のパラメータ、バンドギャップ、有効質量、変形ポテンシャル |
| 動作条件 | キャリア密度、温度、位置に対するバイアス電位 |
| 解析条件 | 実効屈折率、線幅広がり、周波数範囲、k・p法の次数 |
OUTPUT
| バンド構造 | バンド図、サブバンドのエネルギー、波動関数 |
|---|---|
| 利得と自然放出 | TEとTMに分けた誘導放出と自然放出の係数 |
| 複素屈折率 | 屈折率の変化と減衰係数 |
| 遷移の情報 | 光学遷移行列要素、擬フェルミ準位と占有確率 |
進めかた
実際の進めかた
材料を用意する
k・p法のパラメータ、バンドギャップ、有効質量を与えます。データベースにない材料は、電気物性とk・p法のパラメータを自分で定義します。
層構成を設定し、歪みを与える
各層の厚さと組成を定義します。横方向には無限に続く前提であることを踏まえて層構成を決めます。
動作条件を与える
温度、キャリア密度、バイアス電界、実効屈折率、線幅広がりを設定します。キャリア密度と電界は、ドリフト拡散解析の結果を取り込めます。
計算条件を決めて実行する
周波数範囲、横波数の範囲、k・p法の次数を選んで解き、利得と自然放出のスペクトルを取り出します。
実効屈折率にはモード解析の結果を使います。ここが実構造と合っていないと利得の絶対値がずれます。手順の中で最も時間を使うべきなのは03です。
関連手法との関係
関連する解析手法との役割分担・連成
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| MQW(本手法) | 本手法 | 量子井戸のバンド構造と利得 | k・p法でサブバンドを解き、光学遷移から利得と自然放出、屈折率の変化を求めます。 |
| CHARGE | 前段 | デバイス全体のキャリア輸送 | キャリア密度と電界を求め、データファイルとして渡してきます。順に実行する形で、同時には解きません。 |
| FEEM | 前段 | 導波路の断面モード | モード分布と閉じ込め係数を求めます。実効屈折率はこの手法への入力になります。 |
| HEAT | 前段 | 構造内の温度分布 | 温度場を求めます。量子井戸解析はその温度を一つのスカラー値として受け取ります。 |
| 回路レベルの解析 | 後段 | レーザーの動特性 | 利得と自然放出のスペクトルを受け取り、しきい電流やL-I特性を時間領域で求めます。 |
対応製品
この手法を提供する製品
多重量子井戸のバンド構造と利得の計算を提供する商用ソフトウェア環境です。ドリフト拡散解析や熱伝導解析も同じ環境に含まれます。ただし、レーザーの設計として完結させるには、モード解析と回路レベルの解析を担う別の製品と組み合わせます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Lumerical Multiphysics
FAQ
よくある質問
量子井戸の層構造設計から、ご相談いただけます
層構成と評価したい特性をお知らせいただければ、適切な手法と製品をご提案します。
