どういう手法か
周期を前提に、次数ごとの応答を求める
RCWAは、多層構造に入射した平面波の光学応答を、マクスウェル方程式を半解析的に解いて求めます。対象になるのは、層の形状が面内で周期的に変化する構造、たとえばフォトニック結晶や回折格子です。
計算は3つの段階からなります。まず構造を伝搬方向に沿って一様な層の並びに分けます。次に各層でマクスウェル方程式をフーリエ領域で解析的に解きます。フーリエモードの波数ベクトルはk空間のベクトルと呼ばれます。最後に各層の解を双方向に伝搬させて連結し、構造全体の散乱行列を求めます。
精度を決める量は2つです。断面を分ける層の数と、保持するk空間のベクトルの本数です。どちらも増やすほど精度は上がり、そのぶん計算時間が増えます。
仕組み
層ごとに解析的に解き、散乱行列でつなぐ
この手法の前提は、面内方向に同じ形状が繰り返されることです。解析領域の面内方向の幅がそのまま単位セルの境界を定め、その外側では同じ形状が周期的に続くものとして扱われます。周期があるために面内の場はフーリエ級数で表せます。本来は無限に続く展開を有限本で打ち切ることで、扱える大きさの数値問題になります。
打ち切りは、原点に近い順にk空間のベクトルを選ぶ形で指定します。選ぶ領域の形は円形と矩形から選べます。2次元の計算では、誘電率が不連続に変わる面での級数の扱いかたを指定する設定も用意されています。空間の格子も時間の刻みも使わないため、格子に由来する数値分散や階段状の形状表現は現れません。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
半解析的であることの利点
RCWAと多層膜の解析的な解法は、同じ問題を時間領域で解くより多くの場合速く終わります。時間領域の解法が完全に数値的であるのに対し、RCWAは半解析的です。そのぶん、同じ構造では時間領域の結果のほうが一般に精度で劣ります。
調整する量が少ない
収束のために振る量は、層の数と、保持するk空間のベクトルの本数の2つだけです。設定そのものも、時間領域の解析よりはるかに単純です。
次数ごとの複素量が得られる
回折次数ごとのパワーの割合に加えて、偏光ごとに分解した複素散乱パラメータや、層の積み重ねの外側の界面における複素振幅まで取り出せます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 面内に周期性のある層状構造で、次数ごとの回折効率を知りたいとき
→ 入射角と波長を広く振って、応答の依存性を調べたいとき
→ 単位セルの寸法を振って、位相と透過率の対応表を作りたいとき
→ 傾いた側壁をもつ格子のように、層に分けて表せる形状を扱いたいとき
→ 厚い周期構造を、層の繰り返しとして定義して扱いたいとき
別の手法が適している場面
周期性を仮定できない構造:この手法は、解析領域の外側にも同じ形状が続くことを前提にします。有限の大きさそのものの影響や、周期のない任意形状を知りたい場合は、体積を離散化する時間領域の手法が必要です。
面内にパターンのない多層膜:層が平坦で横方向に一様なら、行列を掛け合わせる解析的な解法のほうが単純で、収束の確認も要りません。
発光を含む構造:RCWAソルバーにはダイポール光源の選択肢がなく、発光する構造には現状使えません。
入射層と出射層に損失がある場合:最初の層と最後の層における損失は、現状サポートされていません。該当する場合は別の手法を選びます。
適用対象
代表的な適用対象
メタアトムのライブラリ生成
単位セルの寸法を振り、位相と透過率の対応表を作ります。各セルを周期的とみなす近似のうえに成り立つ手順です。
表面レリーフ格子
導光板に使う格子について、次数ごとの効率を入射角と波長の関数として求めます。
フォトニック結晶スラブ
周期スラブの反射と透過のスペクトルを、周波数、角度、偏光の関数として求めます。
体積ホログラフィック格子
厚い周期構造を層の繰り返しとして定義し、現実的な計算量で扱います。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 単位セル | 解析領域の面内方向の幅が定める単位セルの形状と材料 |
|---|---|
| 層の定義 | 伝搬方向に並ぶ層の境界位置。厚い周期構造では層の繰り返しも指定できます |
| 解法の設定 | k空間のベクトルを選ぶ領域の形(円形または矩形)と、保持する最大本数 |
| 入射条件 | 周波数の並べかた、入射角と方位角、s偏光とp偏光、前進または後退 |
| 格子ベクトル | 直交しない単位セルを使う場合の格子ベクトルの角度 |
OUTPUT
| 全体のエネルギー | 反射と透過に回るパワーの割合を、偏光ごとに |
|---|---|
| 回折次数 | 次数ごとのパワーの割合。規格化のしかたを変えた出力も選べます |
| 次数の特性評価 | 次数ごとの複素散乱パラメータを、s偏光とp偏光に分けて |
| 振幅 | 層の積み重ねの外側の界面における次数ごとの電界の複素振幅と、上下層の前進・後退モードの振幅 |
| 場の分布 | 専用のモニタが返す、格子上の周波数領域の電界と磁界 |
進めかた
実際の進めかた
単位セルと層を定義する
面内方向の幅で単位セルを決め、伝搬方向に並ぶ層の境界を定義します。厚い周期構造では層の繰り返しを使います。
保持するk空間のベクトルを決める
選ぶ領域の形と最大本数を設定します。ここが計算量と精度を直接決める設定です。
入射条件と出力を設定する
周波数の並べかた、入射角と方位角、偏光を設定し、必要な出力を選びます。内部の場が要る場合は専用のモニタを置きます。
収束を確かめて掃引する
本数と層の数を増やして結果が動かなくなる点を確かめてから、寸法や角度の掃引に進みます。
層の繰り返しを使う場合と、完全異方性の材料を使う場合には、同時には使えない機能の組み合わせがあります。該当する設定を使うときは、組み合わせの可否を先に確認してください。RCWAソルバーはリリース2023 R1以降の機能です。
関連手法との比較
関連する解析手法との使い分け
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| RCWA(本手法) | 本手法 | 面内に周期性のある層状構造 | 層ごとにフーリエ領域で解析的に解き、連結して次数ごとの応答を求めます。周期を仮定できることが前提です。 |
| STACK | 代替 | 面内にパターンのない多層膜 | 層ごとの行列を掛け合わせる解析的な解法です。面内の展開がないぶん単純で、収束の確認も要りません。 |
| FDTD | 代替 | 周期性を仮定できない構造 | 解析領域を体積として離散化します。RCWAで解ける問題はすべて時間領域でも解けますが、多くの場合RCWAのほうが速く終わります。 |
| ノンシーケンシャル光線追跡 | 後段 | 系全体への持ち込み | 求めた格子の応答を、光線追跡による系全体の評価に持ち込みます。微細構造をLumericalで、系全体をOpticStudioで扱う分担です。 |
対応製品
この手法を提供する製品
周期構造と微細構造の光学解析に向けた商用ソフトウェア環境です。時間領域の3次元ソルバーに加えて、厳密結合波解析と多層膜の解析的な解法を同じ環境に備え、同じ構造を別の手法で確かめられます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Lumerical FDTD
FAQ
よくある質問
周期構造の回折解析から、ご相談いただけます
単位セルの構成と評価したい量をお知らせいただければ、適切な手法と製品をご提案します。
