どういう手法か
平坦な層の重なりを、解析的に扱う
多層構造の光学応答は、マクスウェル方程式を直接シミュレーションするかわりに、解析的な方法で求められることが多くあります。STACKはその用途の解法群です。実体は一組のスクリプト関数で、同じ機能をもつグラフィカルなオブジェクトも用意されています。
中心にあるのは、平面波の反射と透過を解析的な転送行列の定式化で求める機能です。同じ定式化から、膜の内部の電界と磁界の分布も得られます。さらに層の中に置いた発光源を扱う機能があり、放射の角度分布やパーセル因子まで同じ枠組みで求められます。
必要な入力は、各層の屈折率と厚さ、そして照射の角度と周波数の範囲だけです。メッシュも時間刻みもないため、収束を確かめる作業がありません。かわりに、対象を平面成層として表してよいかどうかの判断が、結果の妥当性をすべて決めます。
仕組み
各層の寄与を行列に置き換えて、境界でつなぐ
各層は、その複素屈折率と厚さ、そして与えた周波数と入射角から決まる行列で表されます。入射側と出射側の媒質に挟んで層の行列を順に掛け合わせると、s偏光とp偏光それぞれについて複素反射係数と複素透過係数が得られます。パワーの割合はそこから求まります。膜内の場は、各界面における前進成分と後退成分を戻すことで再構成されます。
多重反射の干渉をどこまで扱うかは、対象によって変わります。微小共振器の量子効率や取り出し効率を調べる場面では、複数回反射の干渉を扱うことが不可欠です。一方で、層の厚さがコヒーレンス長の程度に達したら、干渉の扱いは外します。
この手法の強み
この手法が選ばれる理由
離散化に由来する誤差がない
解析的な定式化であるため、メッシュも時間刻みもありません。時間領域の計算は、格子を細かくするほどこの結果に近づきます。比較の場面では、STACKの解析解が基準になります。
掃引に強い
多層構造では、場を求める機能が時間領域の計算よりはるかに効率的です。多数の条件を回す場面ほど差が開きます。パーセル因子は、すべてのダイポール位置についてごく短い時間で求まります。
発光デバイスまで同じ枠組みで扱える
反射と透過だけでなく、層内に置いたダイポールの放射輝度や輝度、色度の値、パーセル因子まで同じ枠組みで求められます。
使いどころ
向く場合と、向かない場合
向いている場面
→ 反射防止膜や誘電体多層膜ミラーの層構成を決めたいとき
→ 入射角と波長に対する反射・透過の依存性を、密に調べたいとき
→ 膜の内部の電界分布を求め、どこで吸収が起きるかを知りたいとき
→ 発光層の位置を変えて、取り出し効率やパーセル因子を比べたいとき
→ 面内のパターンを設計する前に、下地の層構成を詰めたいとき
別の手法が適している場面
面内にパターンのある構造:横方向に形状が変わる構造は、この定式化の外です。周期があるならフーリエ領域で展開する手法、周期がないなら時間領域の手法が必要になります。
有限の大きさや任意形状:平面成層として表せない構造は対象外です。素子の縁や有限の大きさそのものの影響は含まれません。
コヒーレンス長を超える厚い層:層の厚さがコヒーレンス長の程度に達したら、複数回反射の干渉の扱いは外します。厚い基板を干渉させたまま扱うと、実際とは合いません。
導波モードそのもの:層構成が決まったあとに導波路のモードを知りたい場合は、断面の固有値問題を解く手法へ進みます。
適用対象
代表的な適用対象
光学薄膜の設計
反射防止膜や誘電体多層膜ミラーの層構成を、角度と波長の依存性まで含めて決めます。
太陽電池
膜内の電界分布から吸収材料の中の吸収を求め、短絡電流の見積もりにつなぎます。
有機ELとマイクロLED
発光層の位置を振り、遠方界のパワー密度、量子効率、取り出し効率を比べます。
メタサーフェスの下地層
面内のパターンを設計する前に、基板と下地の層構成を詰めます。
入力と出力
何を与えると、何が得られるか
INPUT
| 層構成 | 各層の厚さと屈折率。入射側と出射側の媒質を両端に置きます |
|---|---|
| 材料 | 波長依存の複素屈折率。等方性と異方性のいずれも、分散のあるなしを含めて指定できます |
| 照射条件 | 周波数の並びと入射角 |
| 場の設定 | 場を求める位置の範囲と分解能 |
| 発光の条件 | ダイポールの位置と向き、発光スペクトル、角度の分解能 |
OUTPUT
| 反射と透過 | 偏光ごとのパワーの割合と、複素反射係数・複素透過係数 |
|---|---|
| 膜内の場 | 位置の関数としての電界と磁界 |
| 放射の角度分布 | 放射輝度、輝度、色度の値を放射角の関数として |
| パーセル因子 | ダイポール位置に対するパーセル因子と、上下方向のパワー密度 |
進めかた
実際の進めかた
層構成を並べる
入射側の媒質から出射側の媒質まで、各層の材料と厚さを順に並べます。ここでの判断が結果をほぼ決めます。
照射の条件を決める
周波数の並びと入射角を設定します。角度依存性が要る場合は角度も配列で与えます。
求めたい量を選ぶ
反射と透過、膜内の場、層内のダイポール放射、パーセル因子のうち必要なものを選び、対応する設定を与えます。
結果を評価する
偏光ごとの反射・透過、膜内の電界分布、放射の角度分布、パーセル因子を取り出して評価します。
収束の確認は不要ですが、対象を平面成層として表してよいかどうかの判断がすべてを決めます。面内にパターンが入った時点でこの手法の前提は崩れます。厚い層を含む場合は、多重反射の干渉を扱い続けてよいかを確認してください。
関連手法との比較
関連する解析手法との使い分け
| 手法 | 関係 | 主な対象 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| STACK(本手法) | 本手法 | 平坦で横方向に一様な多層構造 | 層ごとの行列を掛け合わせて反射と透過、膜内の場、層内の発光を解析的に求めます。離散化がなく、収束の確認も要りません。 |
| RCWA | 代替 | 面内に周期性のある層状構造 | 面内をフーリエ領域で展開し、層ごとに解いて次数ごとの応答を求めます。横方向のパターンが入った時点でこちらに移ります。 |
| FDTD | 代替 | 任意形状や有限の大きさ | 解析領域を体積として離散化します。平面成層で表せない構造や、素子の縁の影響を含めたい場合に使います。 |
| FDE | 後段 | 層構成が決まったあとの導波モード | 断面の固有値問題を解いてモードを求めます。垂直方向の層構成を決めたあとの段階で使います。 |
対応製品
この手法を提供する製品
薄膜と微細構造の光学解析に向けた商用ソフトウェア環境です。多層膜の解析的な解法に加えて、時間領域の3次元ソルバーと厳密結合波解析を同じ環境に備え、平坦な層から面内のパターンまで続けて扱えます。ライセンス、動作環境、導入についてはこちらをご覧ください。
Lumerical FDTD
FAQ
よくある質問
多層膜の設計と評価から、ご相談いただけます
層構成と評価したい特性をお知らせいただければ、適切な手法と製品をご提案します。
